
DSDsとは何ですか?
ABOUT Differences of Sex Development (DSDs)

男女にある体の性の様々なカタチ
DSDsとは何ですか?
「性分化疾患」とはなんでしょうか?
一般的に女性・男性の体の性の発達は、胎児期の一次性徴に始まり、思春期・青年期にも二次性徴が起こります。特にお母さんのお腹の中で基本的な体の形態が形成されていく胎児期での、性腺や子宮・膣などの内性器の発達や、外性器の発達など、体の性の発達のプロセスはとても複雑なもので、その過程の中で、これが「普通」だと固定観念で決められている男性・女性の体とは少し違った体の発達のプロセスを踏む、女性(female)・男性(male)もいるのです。
このような、生まれつき他の人とは少し違った体の性の発達のプロセスをたどった状態には様々なものがあるため、現在では、Differences of Sex Development :体の性の様々な発達(DSDs)と呼ばれることが多くなっています。
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)についての医学的知識はこの20年で飛躍的に進歩し,また当事者・家族の人々の実情も明らかになっています。
そしてそこでは「男でも女でもない性」という社会的イメージこそが偏見であることも明らかになっています。
ですが現在の性教育やLGBTQ等性的マイノリティのみなさんについての啓発や報道では,DSDsに対する誤った「男でも女でもない」という偏見・誤解をもとに伝えられることがほとんどです。
ある種の障害や疾患には,誤った神話的なイメージが社会的に投影されがちです。そしてDSDsに対しても「男女以外の性別」という神話的なイメージが投影され続けているのです。
ここでは,DSDsの簡単な説明とLGBTQ等性的マイノリティのみなさんとの関係をご説明します。
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DSDsとは…
「DSDs:体の性の様々な発達:Differences of sex development」(性分化疾患)とは、「X・Y染色体の構成や,卵巣・精巣などの性腺、外性器の発達、膣・子宮などの内性器、性ホルモンの産生などが、男性ならば普通こういう体の構造のはず、女性ならば普通こういう体の構造のはずとされる固定観念とは、生まれつき一部異なる発達を遂げた女性(female)・男性(male)の体の状態」を表します。
DSDsは単一の体の状態ではなく、然るべき検査なしでは見た目だけでは性別がすぐには分かりにくい形状の外性器(女性器が大きかったり,男性器が小さく尿道口の位置がずれていたり、内性器等が外に露出した状態等)で生まれる女の子や男の子の赤ちゃんや、二次性徴の欠如等で、X・Y染色体の構成がXひとつであったり(ターナー症候群女性),男性に一般的とされるXY型であったり(アンドロゲン不応症女性など:全くの女性です)、膣・子宮が無いと判明する女性(ロキタンスキー症候群:全くの女性です)、不妊で判明する男性(クラインフェルター症候群男性や,XX男性)等様々なものがあり、それぞれの体の状態や判明時期の違いによっても全く異なります。

DSDsのある女の子・男の子たちの
サマーキャンプの様子

CAHのある女の子(左)とお姉さん
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用語について
DSDsは、医学的には「性分化疾患」、海外の支援団体の一部では「インターセックス」とも呼ばれています。ですが,実は海外の大多数の当事者はこの用語を拒否していて、日本でも「インター”セックス”」との用語は、性行為,あるいは「男でも女でもない」ということをを連想させますので、当事者家族の大多数には好まれていません。
また,英語での「Hermaphrodite(ハーマフロダイト)」、日本語では「両性具有・半陰陽」といった「男でも女でもない性別」を連想させる用語は、医学的にも海外の人権支援の上でも、当事者の心を傷つけるものとして世界的に使われなくなっています。
基本的には、「DSDs(ディーエスディーズ)」との略語が安全でしょう。

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アイデンティティではありません
ただしそもそもとして,海外でも日本でも,当事者家族の大多数は「性分化疾患」・「DSDs」はもちろん「インターセックス」といった包括用語自体を好まず,使用することはほとんどありません。実際のところ,そういう包括用語自体を知らない,知っても拒否するということが大多数です。
DSDsには,「AIS」や「CAH」,「尿道下裂」・「ターナー症候群」など様々な体の状態があり,「私はAISを持っている」「尿道下裂で生まれた」など,個別の体の状態名で表すことがほとんどです。
また,LGBTQ等性的マイノリティーのみなさんは「レズビアン」「トランスジェンダー」という用語を自分の「アイデンティティ」とされることが多いのですが,DSDsを持つ人々は,がん患者や糖尿病患者の皆さんがその病名をアイデンティティとしないのと同じように,DSDsなどの用語を自分のアイデンティティとすることはありません。
DSDsとは,その人の体の一部分に過ぎず,その人全体の存在を決めつけるものではないのです。

ターナー症候群のある女の子マギーさん

VOICES
包括用語,ですか...︖ なにか一つにまとまって何かを目指したり何かをしたりしなきゃいけない人々には,そういうことも必要かもしれません。
でも,私にはNOです。
診断を受ける一番の理由は,私にとっては,それが私の人生にどう影響するのかってことや,同じ疾患を持つ人と話をするために会えるかどうかってことなんです。
アンドロゲン不応症(AIS)のある女性

クラインフェルター症候群(XXY)のある
男性ライアンさんと男の子たち
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DSDsは「女性にも男性にも生まれつき様々な体の状態がある」ということです。
DSDsは性別の判定に然るべき検査が必要となる形状の外性器(マイクロペニスや陰核肥大、外陰部の癒着、尿道口の位置のずれ、内性器や膀胱が外に露出した状態等)で生まれる女の子(female)や男の子(male)の赤ちゃんや、初潮がないこと等で、X・Y染色体の構成が異なることや、膣・子宮が無く不妊状態だと判明する女性(female)等様々なものがあります。
性別の判定にしかるべき検査が必要な外性器の状態で生まれた赤ちゃんの場合も、現在では女の子(female)・男の子(male)の性別の判定はしかるべき検査の上で行われており、大多数が検査の上で判明した性別での女の子・男の子として育っていくことが分かっています。
つまり、DSDsとは「男女以外の性別」ではなく、「女性(female)にも男性(male)にも生まれつき様々な体の状態がある」ということなのです。


VOICES
DSDsは、ただいろいろな男性がいる、いろいろな女性がいるというだけの話に過ぎません。
DSDのある娘さんのお母さん
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当事者の皆さんの実態は…
実は以前までは、DSDsを持つ人々の実際の状況は明らかではなく、憶測や想像だけで「男でも女でもない性」という誤解や偏見が広まっていました。ですが、ここ20年間の間に、DSDsの生物学的な知見も発展し、憶測ではない実際の当事者家族の全体像も明らかになってきています。
人権先進国であるオランダやベルギーの国家機関によるDSDsを持つ人々の実態報告書では、実はDSDsを持つ人々は、男女以外の性別を求めているわけではなく、体の一部が異なるだけで、むしろ切実に女性・男性であり、自分を完全な女性・男性として見てもらえないのではないかと恐れているという現実の状況が明らかにされています。
事実、近年の一般青年期人口で自分を「男でも女でもない」とする人の割合は2.7~5.08%であるということがわかっていますが,一方2017年にヨーロッパで行われたこれまで最も大規模なDSDsに関する調査では,DSDsを持つ子どもたち・人々で自分を「男でも女でもない」とした人は,わずか1.2%に過ぎないこともわかっています。
実際の状況としては,DSDsを持つ人々は,普通の男性・女性ならば生まれつきこういう体であるはずだという古い固定観念によって、男性・女性としての尊厳を損なわれているわけです。
そういったDSDsを持つ人々を、「男・女だけではない」と偏見に基づいて取り上げることは、当事者家族の尊厳を傷つけることになるため,重大な注意が必要です。

アンドロゲン不応症のある女性ケイティさん

VOICES
ターナー症候群を男でも女でもない性別のように書いてる本もありますが、そんなの嘘!
Xがふたつないと「完全な女性じゃない」みたいに言ってる人もいるんです。
ターナー症候群のある女性
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DSDsに対する誤解と偏見
DSDsに対する誤解・偏見として、「男性・女性以外の性別」・「男性女性の両方の特徴を持った人」・「男女分けられない」・「第3の性」・「中間の体」などのイメージがありますが、DSDsは胎児期における体の発達のほんの一部が少し違った経路をたどった女性・男性に過ぎません。
生まれた時に見た目だけではその場ではすぐに性別が分かりにくい外性器の状態で生まれたお子さんも、現在では専門家によるしっかりした検査での女の子か男の子かの性別判定が可能になっています。決して「男女以外の性別」の子どもが生まれてくるというわけではないのです。
また,「支援者」を名乗る方や大学の先生などで「こういう人もいるから男女の境界はない」「男女二元論は間違い」「体の性もグラデーション」と「ジェンダー」の問題として訴える人もいますが,DSDsを持つ人々の大多数はそういう希望はまったく持っていませんし,DSDsはジェンダーの問題ではありません。
むしろ,切実に女性・男性であるDSDsを持つ子どもたちや人々の,非常に私的でセンシティブな領域である「生殖器」の話を,当事者が全く求めていない形で取り上げることは,まるで「見世物小屋」のような体験になり,人間というものに対する重大な倫理が必要になります。

ロキタンスキー症候群のある女性たち
海外国家機関によるDSDs調査報告書より





ターナー症候群(45,X)のある女性エイミーさん
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体の一部の違いで女性・男性としての尊厳を傷つけられている人々です。
現実のDSDsを持つ人々は,「男女以外の性別」でも「男女両方の特徴」の人でもありません。
イメージではない現実のDSDsを持つ人々は,外性器のサイズや形状の違い、不妊の事実、子宮や膣の欠損など,「普通の女性・男性ならこういう体のはず」という固定観念によって、自分の女性(female)・男性(male)としての尊厳を損なわれている人々なのです。
DSDsの判明・診断や本人への説明の時期は、多感な思春期前後が多く、特に染色体の違いがあっても女の子に生まれ育った女性の多くにとっては、診断はそれだけでトラウマを得る体験になっています。
特に「あなたは男でも女でもない」「性自認は女性」といった誤った説明は性的なトラウマを与えることが多く、説明の仕方など医療機関でも慎重な対応がされています。

VOICES
診断を告げられたこと簡単に言えば、突然炎に包まれて焼死して男女の区別が分からなくなるくらい焼け焦げて、検視 官にこれは男性だと言われたみたいなものでした。
スワイヤー症候群のある女性
アンドロゲン不応症(AIS)のある女性
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不妊に苦悩する女性・男性です。
すべてのDSDsではありませんが,DSDsの多くは不妊の状態で、自分の生物学的なつながりのある赤ちゃんを授かれないことに、当事者の女性・男性の多くは大きなショックを受けます。
近年ではたとえば,卵巣はあるのですが生まれつき子宮がなかったことが判明するロキタンスキー症候群の女性への子宮移植で赤ちゃんが授かれるようになるケースが海外で増えています。また,卵巣がなかった女性や,精巣が機能不全の男性でも,養子縁組などでお子さんを授かり,家族を作られる方も多くいらっしゃいます。
ですがそれ以前に多くの当事者の女性・男性のみなさんは,自分の体の違いや不妊状態であることから,特に大切な人との恋愛関係では,相手に去られてしまうのではないかという恐れや,相手に重荷を背負わせてしまうのではないかという大きな葛藤を抱いていらっしゃいます。

アンドロゲン不応症(AIS)でお子さんを養子縁組された女性イーデンさん

VOICES
テレビで赤ちゃんのおむつのCMを見るたびに泣いてました。
赤ちゃんを産みたいという私の夢は打ち砕かれました。
スワイヤー症候群のある女性

アンドロゲン不応症(AIS)のある女の子と女性