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序文


 2017年初頭,ベルギーのトップモデル,ハンネ・ギャビー・オディールが,インターセックスの体の状態を持つ人としてカミングアウトした(USA Today, 2017)。彼女は,体の性の発達の障害/違い(Disorders of Sex Development:性分化疾患/Differences of Sex Development:体の性の様々な発達)としても知られる,内性器の構造や外性器に影響する,40種類以上の先天的な体の状態の1つを持っている。「大騒ぎするほどのことでもないです。私は自分が何者か知ってますから」とオディールは語った。しかし彼女の「カミングアウト」はベルギーだけでなく国際的にもメディアの大きな注目を集めた。こういう状況は,このテーマがいまだ一般には知られていないことを示すものだった。



 しかし,LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の傘下やインターセックスという名の下といった政治運動的状況では,この話題はここしばらくの間注目を浴びていた。性的多様性や,性分化疾患/インターセックスの体の状態を持つ人々のケアの状況や人権が疑問視されていたのだ(Human Rights Commission Council of Europe,2015, Fundamental Rights Agency,2015)。

 しかし少し注意しておかねばならないのは,この対象集団の圧倒的大多数は性的指向や性自認は自分で疑問にしていないということだ。ただし,セクシュアリティや「らしさ」といった規範に関する障害についてはさらなる調査が必要となる(van Lisdonk, 2014)。一方で,こういう体の状態を持つ人々や家族の社会的位置,ケアや生活状況,そしてスティグマ(社会的烙印)の体験がどのようなものなのか,そういった具体的な話が,実は根本的に欠落しているからだ。


 フランドルでも同じく,性分化疾患/インターセックスの体の状態を持つ人々と家族が,医療的に,心理的に,社会的・法律的に,具体的にはどのような必要性と困難があるのかという知識が,実はまったくないのだ。

 

 フランドル共同参画省の委託を受け,Liesbeth Homans大臣の勧告もあり,フランドルのインターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ人々と子どもたち,そしてその家族の体験について,短期間での予備調査ではあるが,はじめての調査を行ったものである。


 この要約は,本調査の最も重要な結果を反映したもので,この対象集団のための特定の政策方針を示唆することを目的としてまとめた。調査は,2016年から2017年まで,Nina Calens博士(Gent大学)によって,Joz Motmans医学博士(Gent大学病院,Gent大学)とChia Longman医学博士 (Gent大学病院)の監督の元に行われた。方法としては,深層面接による質的研究法を用いている。この調査で,様々な政策方針を同定できるほどの,個人レベル,個人と社会との関係レベル,社会レベルでの,インターセックスの体の状態/性分化疾患に伴うであろう障害,そして肯定的な側面にすべて目を向けられたわけではない。しかし,これまで政策指針となるような十分な情報は皆無で,今回のレポートでも十分豊かな情報は得られた。ただしさらなる助成と調査で,さらにこの分野の発展は見込めるだろう。

 我々は,特に体験専門者と家族のみなさんに感謝します。フランドルにおけるインターセックスの体の状態/性分化疾患をめぐる特有の課題と一般的な知識を増やすために,みなさんにはそれぞれの物語と貴重な知見をお話しいただきました。Ghent大学病院のDSD多職種医療チームのコーディネーターで,児童民主のサービス部門のMartine Cools医学博士と,内分泌学会長であるGuy T'Sjoen医学博士にも感謝します。おふたりには回答者データベース及び,UZを通じた調査協力者の募集のコーディネートをいただきました。



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海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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