【緊急声明】「体の性のグラデーション(スペクトラム)モデル」は人権侵害です。
LGBTQ等性的マイノリティの皆さんの説明において,以前から「体の性も性分化疾患の人たちがいるからグラデーション」という説明がされることがあります。
ですが,以前からネクスDSDジャパンでもお伝えしているとおり,学校で体の性にもグラデーションモデルが使われた授業で,不登校になったDSDs当事者のお子さんについての相談も受けている状況です。
「体の性のグラデーション(スペクトラム)モデル」は,DSDsに対する古い偏見を助長するだけでなく,DSDs当事者の子どもたち・人々の大多数に,二次的なトラウマを与えかねないものです。
現在「体の性」に対してグラデーション(スペクトラム)モデルをお使いの方は,どうかすぐにおやめいただき,もし知り合いの方でまだご存じない方がいらっしゃいましたら,このニューズレターを広くシェアいただき,理解をいただけるよう,お力を貸して頂ければ幸甚です。
卵精巣性DSDを持つ皆さんのサポートグループからのメッセージ
卵精巣性DSDはかつて真性半陰陽と呼ばれていた,DSDsの体の状態のひとつです。現在「真性半陰陽」という用語は,「両性具有」「男でも女でもない性」という古い偏見に基づくものであるため,医学上でも人権支援上でも不適切とされています。
ですが卵精巣性DSDは,社会で今でも,AIS等のXY女性と同じく,DSDsに対する偏見が最も集中しやすい体の状態と言えるでしょう。
実は日本には卵精巣性DSDを持つ人々のサポートグループがあります。卵精巣性DSDに特化したサポートグループは海外でもあまり例がなく,しかもグループメンバーの「かくまん」さんがツイッターで情報を発信されています。
先日も,テレビで取り上げられた体の性のグラデーションモデルについて,とても大切で重いお話を投稿されました。
まずはぜひ皆さんにも,卵精巣性DSDを持つ皆さんの想いを読んで頂ければと思います。
なぜ「体の性のグラデーション(スペクトラム)モデルは,DSDsを持つ人々の大多数に二次的なトラウマを与えるのか?
DSDsの診断を受けた人々のトラウマ
「体の性のグラデーション(スペクトラム)モデルは,DSDsを持つ人々のためになる」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。ですが,実はこれは重大な間違いです。 現実には学校等でグラデーションモデルが体の性に使われ,DSDsがまるで中性のように言われたことにより,不登校になったり,「その他」の性別欄を見て自殺未遂 に至った子どもたちがいます。
DSDsを持つ人々に対して,「男でも女でもない」「中性」のような古い誤解偏見をまだ持っている人々には,なぜ体の性のグラデーションモデルが,当事者の子どもたちや人々の心を傷つけ,不登校や自殺未遂にまでなるのか,全くわからない方もいるでしょう。 中にはお医者さんでもそう言う方がいらっしゃいます。
ですが,実際は全く逆です。 DSDsというのは現実には女性・男性の体のバリエーションに過ぎません。 また現実のDSDsを持つ人々は,決して中性と思われたいのではなく,むしろ切実に自分のことを女性・男性と見てほしいと思っているのです。
そして,DSDの診断を受けた人々のトラウマ反応や自殺念慮率は,「男でも女でもない」といった社会的偏見も相まって,性的虐待を受けた女性のトラウマ反応や自殺念慮率よりも高いということも分かっています。
DSDsを持つ人々にとっては,「男でも女でもない」「男女の中間」と言われること,無理やり位置づけられることこそが,最も心を損なわれることなのです。
ある女性の顔が「男性のよう」だから「男性寄り」?
性的指向や性自認のグラデーションモデルはLGBTQ等性的マイノリティの皆さんには最適でしょう。
ですが,例えば「体のグラデーションモデル」を,女性・男性の身長や顔つき,体格に当てはめてみましょう。
あの女性は身長が高いから『男性寄り』
あの女性は顔が女性のように見えないから『男性寄り』
男みたいな顔をした女性もいるから『男女の顔はグラデーション』
あの女性は体つきがゴツいから『男女の中間』
これは絶対ダメだと皆さんすぐにわかりますよね。
ではなぜ,DSDsを持つ人々や子どもたちの「性器の大きさや形」や「生殖器の構造」だと,「体の性もグラデーション」と言えてしまえるのでしょうか?
女性・男性に生まれ育った人に対して,生まれつきの顔つきや体格で「女みたいじゃない」「男みたいじゃない」だと他人が勝手に思って, 「体も男女はグラーデション」と言う人がいたら,それは相手を傷つけることであり,人権侵害であることはすぐに分かるはずです。
ですが,最も私的で最もセンシティブな領域であるはずの「生殖器」では,そんな当たり前のことが,なぜか通用しなくなるのです。
人の容姿や体格を,女性・男性「どっちつかず」「どちらとも言えない」なんて言ってはいけないのに, なぜ「性器」なら「どっちつかず」「本人の意志に基づくべき」などと言えてしまうのでしょうか…?
これは,女性の「ルッキズム」どころの話ではない,とても異様なことです。
「DSDsを持つ人々は『何%』女性か男性か?」という差別的発想
これは「体の性のグラデーション(スペクトラム)モデル」の大元になった図です。
ですがよく見てみましょう。
この図は左側を「典型的女性(100%女性)」としています。
そして,いわゆるターナー症候群(45,X)の女性は,「女性度75%」に位置づけられてしまっています。
ターナー症候群の女性は染色体がX1つの女性で,その多くが卵巣不全による不妊状態です。
皆さんは不妊の女性を,「女性度75%」くらいと位置づけますか?
どうか少し想像してみてください。「あなたは子どもが産めないから,100%の女性からグラデーションの男性に近いですね!」と言われた不妊の女性の気持ちを。
それがどれだけ酷いことかは,すぐにお分かりいただけるでしょう。
次に「女性度60%」ほどのところに位置づけられているのは,CAHという疾患で生まれてくる女性たちです。
CAHを持つ女性たちは,一部の女の子で出生時に然るべき検査による性別判定が必要になることがあります。 ですが,卵巣も子宮もあって,外性器の形状が少しだけ違う女の子だと分かるのです。
生まれた時の性器の違いがある女性を,なぜ「女性度60%」ほどのところに位置づけられてしまうのでしょうか?
体重が重ければ「女性度60%」でしょうか? 腕が太ければ「女性度60%」でしょうか?
人間の最も私的で最もセンシティブな「性器の大きさや形」で,なぜこんな非人間的なことができてしまうのでしょうか?
「体の性のスペクトラム(グラデーション)モデル」の背後にある非人間的な観念
そう。
こういった非人間的な考え方の背景には2点あります。
1つ目は,「100%の正常な女性」・「100%の正常な男性」という偏った観念です。
皆さんは,女性・男性の容姿を「100%の正常な女性・男性」という観念で,相手を「何%くらいか」と位置づけようとしますか?
人によってはスペクトラムモデルを使って「インターセックスの人もいるから性はグラデーションだ。100%の女性・男性はいない」と言う方がいらっしゃいます。こう聞くと,皆さんも性別から解放されたという感じがしたり,LGBTQ等性的マイノリティの皆さんの理由付けにもなるように思う方もいらっしゃるでしょう。
とても不思議なことに,「インターセックスの人もいるから性はグラデーションだ。100%の女性・男性はいない」と最初に唱えた人は,自分がDSDsを持つ人々を「男女の中間」に位置づけて,他人の家の子どもの「性器」の話を人身御供にしていることに全く無意識なのです。
大変残念ながら,日本のLGBT活動家の一部の人やアカデミズムの学者さんたちの中には,出生時に性別判定検査が必要なDSDsを持つ子どもたちの外性器の図画や写真を使って「何をもって男性器・女性器と言うのか?」と公然で訴えたり,DSDsを持つ女性・男性の全裸の写真を使って「性はグラデーションだ」と唱える人もいます。(海外の「ジェンダーブレッドパーソン」や「ジェンダーユニコーン」も,DSDs当事者の人々の意見を聞くこともなく,同じ発想で作られています)
皆さんは,自分自身や自分のお子さんの「外性器」や「全裸」の写真を,自分たちが全く望まない形で,公然と「展示」されたいでしょうか? そんなわけ,ありませんよね。
では,DSDsを持つ子どもたち・人々に対しては,なぜこんなに無意識に,非人間的な事が起きるのでしょう?
それはスペクトラムモデルの背後にあるものの2つめ,
人間を「標本」や「見世物小屋」のように扱ってしまえる心性です。
21世紀の現代でも,DSDsを持つ人々の,それに対して「男でも女でもない」と偏見を持たれる故に自殺未遂にまで至ってしまうこともある,最も私的で最もセンシティブな領域であるはずの「性器」の図画や話を,公然と「展示」できてしまうのは,そこにいるのが「人間」ではなく,「モノ」や「標本」でしかないからです。
付け加えますが,現在のDSDs専門医療では,DSDsを持つ患者さんたちを「標本」のように扱う態度は厳に慎まれています。 ですが,お医者さんの中には,とても残念ながら,そういう観念を持ったままの人達がいらっしゃるのも事実です。 残念ですが今でも研修医に囲まれて性器の検査を受けたという話は絶えません…。
更に,最近はかなり変わってきていますが,産婦人科の先生方や研究職のお医者さんは,DSDsを持つ赤ちゃんにしか会うことがなく,その後はすぐにDSDs専門医にリファーすることになるので,当事者のその後の切実さなどがよく分かっていない先生方も残念ながら多いのです。
そしてそれ以上に現代では,アカデミズムの先生やLGBTの活動家の方で,DSDsを持つ子どもたちや人々の全裸の写真や「性器」の図画を使って,「こういう人もいるから男女に分けられない」「体の性もグラデーションなのです!」「何をもって男性器というのか!?」と訴えるような人が現れてきているという,とても非人間的な状況が復活しているのです。
では,どうすれば良いのか?
ターナー症候群やCAH,AIS,ロキタンスキー症候群などを持つ女の子・女性たち,クラインフェルター症候群や,尿道下裂で生まれた男の子・男性たち,そして卵精巣性DSDを持つ皆さんなど,DSDsの各種体の状態を持つ子どもたち・人々と家族の皆さんの国内外のサポートグループを見ていけば,当事者・家族の皆さんが訴えていることは,実は「こういう女性もいます!「こういう男性もいます!」ということだということはすぐにお分かりいただけるでしょう。
そうです。DSDs(インターセックス)とは,現実には「女性にも男性にもさまざまな体の状態がある」ということなのです。
ですので,性自認や性的指向等のグラデーション(スペクトラム)モデルを使われる際は,このような図をお使い頂ければと思います。自身がXジェンダー(「性自認」が男でも女でもないということ)でお医者様の吉田恵理子先生が作られた概念図です。
医学書院 週刊医学界新聞 第3342号 2019年10月14日 吉田絵理子 「医療者が知っておくべきLGBTQsの知識」より
性を,人を大切にするとは,どういうことなのか?
「体の性もグラデーション!」と聞いて,そういうものだと思われていた人もいらっしゃるでしょう。
ですが,実はそういう発想は,「正常という観念」や「人間を標本のようにできる」精神状態にある人達が作ってきてしまったものなのです。
ですが,皆さんはもちろんそういう人達ではありません! ここまでお話すれば,私たちのつらさ,私たちの想いをご理解いただけることと確信しています。
私たち人間というものは,とても残念ながら,色とりどりの蝶を標本にして,グラデーションになるように色ごとに壁に飾り付けて,「社会はそうではないが,自然は多様性を愛する」と謳えてしまう転倒した生き物でもあります。
そしてそれを人間に対して行えてしまうことも…。
ですが人間は「自分が何をやっているか」振り返るということができる生き物でもあります。 そして自らの人間性を問うこともできる生き物です。
人間が人間で有り続けるために,私たちは不断に振り返り続けなくてはならないのでしょう。
「人間」を,「人間の最大に私的でセンシティブな領域」を,誰かが楽しむための,自分の信じる理念や理論の理由にしてしまうことは,もうやめましょう。 それは,21世紀の今でも残ってしまっている,あまりに非人間的なことです。
皆さんもどうか,DSDsを持つ子どもたちと人々の「あたりまえの人間としての尊厳と権利」を守って頂ければと願います。
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