デブラ・ストラウスさんは家族とニュージャージー州で暮らしています。夫のピートさんとともに、2人の息子、クーパーくんとデクランくんの子育て中です。息子のひとり、デクランくんは、X染色体を1つ多く持っています。この子の47,XXYの診断について学んだこと、そしてクラインフェルター症候群のために妊娠中絶を勧められたときのストーリーを、デブラさんが話してくれました。
診断
デブラさんは初めての妊娠で、超音波検査の予約日をわくわくして待っていました。生まれてくる子の画像をたくさん見られる機会が楽しみでした。ところが、検査で小さな異常が見つかり、わくわくする気持ちは不安に変わりました。赤ちゃんのあごが少しだけ短いことがわかったのです。検査医は、デブラさんはもう「ぎりぎりの時期」なので、詳しい検査をした方がいいと言いました。その日のうちに絨毛生検(CVS)という処置を受け、胎盤の試料が検査機関に送られました。
結果が出るまでの間、ふたりは相変わらずわくわくした気持ちも持っていました。生まれてくる子の性別がわかるのが楽しみだったのです。そこへ遺伝カウンセラーから電話がありました。その女性は、「いくつかお知らせがあります」と言ってから、デブラさんの赤ちゃんはクラインフェルター症候群(KS)、または47,XXYと呼ばれる状態であることを説明しました。
ピートさんは仕事に行っていたので、そのときデブラさんはひとりで家にいました。彼女は電話から聞こえてくる情報をなんとか理解しようと努力しました。まだお昼時で、ピートさんが職場から帰ってくるのは何時間か先でした。カウンセラーは、赤ちゃんの状態はスペクトラム障害の一種だと説明しましたが、KSが男性だけに起きる状態だとは、はっきり言いませんでした。
カウンセラーは、こんな風に続けました。「この状態の男の子には、たいてい社会的な問題があります。ですから、お友だちはあまりできません。変わった体つきをしていて、女性化乳房になることがあります。自尊心に問題があり、学習障害もあります」。そこでデブラさんが赤ちゃんの性別を尋ねると、カウンセラーは男の子だと言いました。デブラさんはこのときの会話を思い出しながら、こう言っています。「こんな風に、ちょっとおかしな流れで『男の子ですよ』と知らされたんです。情報を伝える順番が間違ってると思います。まず嬉しいお知らせから始めるべきなのに、そうじゃなかったんです」
それから、KSによる妊娠中絶の話になりました。ひとつの選択肢として中絶が持ち出されたので、デブラさんは「ぞっとして、沈んだ気持ち」になりました。カウンセラーはさらに、赤ちゃんには「22q 11.2微小重複」という第二の診断もついていることを告げました。説明によると、この診断は「重大な問題を引き起こす」こともあるのだと。そしてデブラさんに、ピートさんと一緒に妊娠中絶の相談に来るよう提案しました。そこでもっと詳しい話もできるけれど、親御さんたちの中には、「この問題は自分たちには扱いきれない、と感じる方々もいます。あなたの場合、中絶がひとつの選択肢になります。あなたとご主人は、今回の妊娠の中絶を希望することもありそうでしょうか?」と言うのです。
クラインフェルター症候群による妊娠中絶??
カウンセラーから提案されるまで、デブラさんの頭に中絶のことなど浮かびもしませんでした。彼女は不安な思いで、「ああ神様、これから私はどうなるのでしょう?」と思いました。ピートさんもデブラさんの不安をわかってくれましたが、ふたりは、もう少し助けになるものを探してみることにしました。それから数週間、つらい時間を閉じこもるようにして過ごした末に、「もっと助けになってくれそう」で、ふたりに必要な思いやりを示してくれる遺伝学医師を見つけました。その医師はこう説明しました。「お子さんの状態には、人によっていろいろな症状が、いろいろな程度で現れる『スペクトラム』という特徴があります。お子さんが2つの状態を持っていると言っても、その両方が『軽い』レベルなら問題ありません。この状態の男の子は、将来子どもを持とうとするとき以外は、何の問題もなく人生を送れる場合がとても多いのです」。遺伝学医師の様子には、前のカウンセラーよりずっと楽天的な雰囲気がありました。そして彼はこう言いました。「丈夫に育ったらどうします? スターになるかもしれませんよ?」 この言葉にデブラさんは、「気持ちがかなりすっきり」しました。遺伝学医師との面談を終え、デブラさんとピートさんは、妊娠中絶という選択肢がすっかりなくなったと実感しました。
妊娠・出産
中絶をしないと決めて以来、デブラさんの妊娠は問題なく進みました。気分が悪くなったり不調を感じたりすることはありませんでした。妊娠38週で産気づき、少しの間だけ自宅で陣痛に耐えました。病院に到着したときには、もう子宮口が9.5 cmまで開き、いつでも出産できる状態でした。デクランくんは分娩の途中でおりてこなくなったので、帝王切開になりました。
赤ちゃんの頃のデクランくん
デブラさんは、デクランくんがとてもおとなしい赤ちゃんだったことを覚えています。泣くのは何かがほしいときだけでした。デクランくんはとても幸せに、順調に育ちましたが、いくつかの節目に少しだけ遅れがみられました。例えば、ハイハイするようになったのは生後10ヶ月半の頃でした。歩き出したのは17ヶ月半ですが、17ヶ月のときに言語セラピーと運動セラピーを始めています。こうした早期介入はとても役に立ち、デクランくんはすぐに追いつきました。デブラさんはこう言います。「早いうちに環境を整えてもらったり知識を得たりすることが、とても役に立ったと思います。そうでなかったら、私たちはたぶん、しばらくそっとしておいたと思うのです。『まあ、ちょっと様子を見ましょうか』などと言って。でも、情報が得られて助かりました」
XXYとともに生きる
デクランくんは今、健康で幸せな1年生です。本の朗読がクラスで一番上手で、同学年の中でも人気者のひとりです。デクランくんの何が人を引きつけるかと言えば、彼の共感力の高いところだとデブラさんは言いました。そして、こう付け加えました。「デクランは、信じられないくらい人の気持ちを理解できるんです。そういうところを大切にしながら、何かをなしていってほしいと願っています。だって、私がこれまでに見たことのある子どもの中で、あの子が一番、人の気持ちを理解できるんです。本当に、周りのすべての人に気配りをするんです。サッカー場で誰かがころんだら、デクランくんはその子に手を貸して立たせてあげて、土を払ってあげるんです」
小児用のテストステロン注射を一定期間受けたときは、家族から見て、デクランくんの体と心が少し成長したことがわかりました。家族で将来のことを考えて、デクランくんの診断のことを少しずつオープンにしていこうと計画しています。デブラさんはこう言いました。「夫も私も、わくわくしてるんですよ。オープンにすることで、みんなに良い影響があることを願っています。みんなが私たちのところにきて、話をしたり、訊きたいことを尋ねてくれたりしたらいいな、と思います。たとえ、ばつが悪いと思えるような質問でも、気にせず直接尋ねてくれることを願っています」
医療従事者は何を知っておくべきか
医療従事者にどんなことを知っておいてほしいかと尋ねると、デブラさんは、赤ちゃんのことを知らせるときの伝え方を考えることが大事だと強調しました。「ネガティブなことから切り出さないことです。この子たちはポジティブなことも、たくさん持っています。KSの情報を知らされれば赤ちゃんの性別はわかるのですが、もし親御さんたちが知りたがっていたら、[赤ちゃんの性別を]まず伝えてください。親御さんには、わくわくした様子で接してあげましょう。こんな風に。『ええ、男の子ですよ! ところで、それとは別に、息子さんが持っている状態のことをお話ししなければなりません』」。そして、デブラさんはこんな提案もしました。「情緒面でのネガティブな影響のことや、体へのネガティブな影響のことばかり言わないことです。『お子さんは、いたって正常で、どこも悪くないかもしれません。とびきりの才能や美的感覚を持っている可能性もあるんです』と説明してください。結局のところ、どの子もみんな違うのですから。『お子さんはそのうち大物になるかもしれません。次のスティーブ・ジョブズかも。まだ誰にもわからないだけです』」
さらにデブラさんは、KSを持っているということで、その子のすべてが決まるわけではないと言いました。デクランくんは早期介入が必要かもしれないけれど、ほかにも同じようなお子さんは大勢いると説明してほしかったそうです。そういうケアはKSに限ったことではないのですから。
親御さんたちに伝えたいこと
デブラさんは、お子さんがKSと診断された方々には、ほかのお母さんたちとつながりを持つことを勧めています。彼女は、47,XXYに特化した赤ちゃんのサポートグループを見つけ、そこから大人たちの集いに参加し、それから「Living With XXY」を知りました。
デブラさんは、「この状態を持って生きてきたた男性たち」と話してみることを勧めています。「彼らの立場に立って、その状態を持っていることを想像してみると、どれほどつらい思いをしたかがわかります。それでも……子どもなら誰だって何か苦手なことがあるものです。なのにKSの男の子たちは、申し分のないくらい完璧な子が多いのです。みんなやる気があって、しっかりしています。それから、この診断を知らされたお母さんたちは、必要な情報を何でも手に入れられるわけではないと思います。もし同じ経験をお持ちの方々と話すことができたら、たぶんこの男の子たちの、思いもよらないような素晴らしい姿がわかると思います。そういうことが私の救いになりました。だから、母親同士でおしゃべりしましょう。私はとても早い時期に、[KSをお持ちの]男性たちとも話したことがあります。そのみなさんのおかげで、これは何も悲しむべき診断ではないとわかりました。KSはギフト(授かりもの)のようなもの、と感じています」
(この体験談の日本語翻訳は,有志の方に翻訳をいただきました。ありがとうございます!)
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